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粟野真理子のパリおしゃれ通信

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マグリット新解説①  Magritte ①

こんにちは。
パリは今週は雪が降り、気温が1度前後とすごく冷え込んでいます。こんな夜はお鍋に限る!私は土鍋を大・中・小と持っているので、その日の状況に応じて、使いわけています。ひとりで食べるなら、おひとりさま用鍋。親しい友だちを呼んで食べるときは、2人用の中鍋、大勢で食べるときは大鍋で。水炊きや鴨鍋、豚&白菜鍋、石狩鍋などを作りまりした。日本酒やワイン、シャンパンをお供に楽しんでいます♪

 今年の5月末に、「日経ビジネス」の読者向けライフスタイル・マガジン「日経プライヴ」の取材で、ベルギーのブリュッセルに出かけた。6月に新しくオープンの「王立マグリット美術館」の取材のためだ。それまでマグリットのことと言えば、教科書に出てくる絵画や作品の「光の帝国」のことくらいしか知らないので、急いで作品や経歴などをネットで調べたり、画廊関係者にお話を聞いたりして、下調べをした。

 現地に着いたら、美術館の公認専属ガイドで美術史家の森耕治氏が、マグリットの作品について説明してくださったのだが、それがすごくユニークで詳しくて、私は思わずその説明内容に聞き入った。パリに戻ってから、いくつか質問内容があったので、森氏にいろいろ電話でお伺いしているうちに、森氏は「マグリットの通説の伝記は実は真実ではなく、もっと本当の真実があるのです」とおっしゃる。たとえば、マグリットの母は原因不明の自殺をしているが、それには確固たる原因があったのだなど、次から次へと話される内容に驚かされた。マグリットの熱烈なファンでもない私が聞いても、興味深い話。その内容は追々ご説明しながら、私がはまった、森氏が膨大な資料からまとめたマグリットの作品の新解説について、森氏のご了解を得て拙ブログでご披露させていただく。最後にその作品の画像も入っているので、ご覧ください。

 1回目は、私がいちばん興味を引かれた作品「秘められた競技者」について。森氏の原文の抜粋でご紹介。短い説明の作品もあるが、この作品については長いので、ご了承を!

「秘められた競技者」1927年  
この作品は幅が2メートル近くあり、前年に制作されたシュールレアリスムのデビュー作「迷えるジョッケー」、そして「ピレネーの城」と並んで、彼の作品の中では、壁画を除いては最も大きいもの。しかも、この作品を制作してから30年間は、1メートルを超える作品はほとんど制作していない。理由は簡単で、その後引っ越したエスゲム通りの家の台所兼アトリエが狭すぎて、1メートルを超える大作を描くスペースがなかったためだ。  
この絵には、9本のチェスのコマ、白色の歩兵のポーンが描かれ、その白いポーンには桜の花が咲いているように見える。これが歩兵のポーンだとすると、作品左側には敵の黒いコマの歩兵がいるはず。ところが、実際に見えるのは箱のなかに閉じ込められた猿ぐつわをはめられた女性と、野球に興じる男性二人。さらに奇妙なのは、ボールの変わりに空を飛ぶ海がめ。野球に興じる二人のライバルプレイヤーもいない。
この絵を解釈するには、マグリットが大好きだったエドガー・アラン・ポーの短編小説「メルツエルのチェス競技者」、ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」と「不思議の国のアリス」の三作を読む必要がある。
この画面は、空想上のチェス盤の白いコマの陣営の光景なのだ。そして、チェスの白陣営のお話は「鏡の国のアリス」で紹介されている。主人公のアリスが、白陣営のコマボーンになって敵の女王を倒す話だ。それでコマも競技者も 、閉じ込められている女性もすべて白。そして左側の見えないライバルのプレイヤーは、黒色のコマナイトを動かして白陣営に攻撃をかけて、主人公のアリスを捕虜にしようとした。ナイトは敵のコマを飛びこして移動できるコマ。ところがナイト、つまり馬であるはずのコマが、ここではのろのろの空飛ぶ海がめに置き換えられているところが奇妙であり、愉快な点だ。マグリットはこの海がめを、当時のラルース辞典のイラストから借用したといわれている。そして「鏡の国のアリス」では、あやうくアリスが捕虜になりかけたとき、正義の味方の白いナイトが現れてアリスを救った。8個しかないはずの白いコマが9個あるのは、もしかすると、アリスまたはナイトの存在を暗示しているのかもしれない。
そして、背景に見える桜の木は、「不思議の国のアリス」の第8章で、大きな白いバラの木をわざわざ赤く塗る3人の庭師の話として書かれている。また画面上の野球競技者のエピソードは、同じ第八章で現在のゴルフに似たクロケー競技の話として書かれている。今となってはマグリット本人に確認はできないが、このクロケーと野球に似たクリケットは綴りと発音が似ている上に、二つとも当時のベルギーではほとんど知られていないスポーツ。そのために、マグリットがクロケーと野球を混同した可能性がある。また海がめの話は「不思議の国のアリス」の第9章で、「にせ海がめ」の話として出てくる。しかもそのグリフォンという海がめは、もともと学校にも通ったことのある海がめだったが、事情があって鳥のような羽のある怪物になったと書かれている。だから当然この絵のように空を飛べるのだ。
では、タイトルの「秘められた競技者」は何を意味しているのだろうか。よく言われているように、左側の見えないライバルのことではない。解答の鍵はエドガー・アラン・ポーの小説「メルツエルのチェス競技者」にある。
メルツエルのチェス競技者というのは、1769年にハンガリーのケンぺルン男爵によって作られたチェスをする「トルコ人」とよばれるロボット。暗い劇場の中で、6本の蝋燭に照らされたチェス盤のまえに座ったロボットは、トルコ風の服に身をつつみ、左手で実際に、人間相手にチェスをしたそう。でも、エドガー・アラン・ポーは、彼の小説のなかで、このロボットのなかに、実は人間が隠れていて、機械仕掛けの腕を動かしていることを見事な推理で暴露した。
今作品の「秘められた競技者」は、ロボットの中の隠れた人間を暗示している。それは、狭い箱のなかに閉じ込められ猿ぐつわをはめられた、でもなぜか手だけは自由に動かせる女性のことだ。女性は狭い箱の中で、猿ぐつわをはめられているにもかかわらず、自由な右手で棒のようなものを持って、ロボットの左手を秘かに操作してチェスをしている。だから「秘められた競技者」なのだ。

 以上が、この作品の解説だ。実際にこの大きな作品を眺めると迫力がある。解説がなければ、いったいこれは何?と思ってしまう、見る人の想像力を掻き立てる力がある。さあ、これからマグリットの魅力に、どっぷりはまっていきたい。




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by madamemariko | 2009-12-21 12:05 | 美術散歩
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