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粟野真理子のパリおしゃれ通信

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マグリット新解説②  Magritte ②

新年明けましておめでとうございます。
カウントダウンのときには、近所から「Bonne Annee(新年おめでとう)!」の声があちこちから聞こえ、車のクラクションを鳴らす音が高らかに響き、新年の幕開けを実感したところです。
皆様、今年もどうぞ良いお年をお過ごしください♪

 先月から、ベルギーの王立マグリット美術館の公認専属ガイドである森耕治氏による、ベルギーの国民的画家、ルネ・マグリットの作品の新解説をご披露している。マグリットのことを調べると、小市民を装ったマグリットの伝記が書かれている。が、果たしてそこに書かれていることは真実なのだろうか。彼が描いた作品は謎に満ちたメッセージとも捉えられる不可解な内容の作品が多い。これはなぜなのか?マグリットに興味を持った者なら誰しも感じることで、これを美術的見地からではなく、心理学的に検証しようとした人物がいる。それを私に教えてくれたのが森氏だった。

 その人物とは、ベルギーのルーヴァン大学で講師を務める、精神分析学者のロワザン博士だ。彼はマグリットの作品に魅せられ、マグリットの心理について小論文を書くつもりで、彼が幼少のころに過ごした場所を訪れた。そこで、マグリットの隣人だった人に意外なことを聞いたことがきっかけで、マグリットのことについて10年以上も調査を費やしたという。このブログでは、ロワザン博士が調査した内容や森氏のことをご紹介しながら、マグリットの作品を繙いていきたい。

 2回目は、マグリットファンが好きな青空が出てくる作品をご紹介。私もとても気になる作品のひとつだ。森氏の解説をお楽しみください。

「帰還」1940年 
星の光る夜空に、真昼間の青空をくりぬいたハトが、卵が三つある巣に戻ってくる。夜と昼間の組み合わせという点では後の「光の帝国」を彷彿させるが、ここで肝心な点はそれではなくて、この絵が制作されたいきさつだ。
1940年5月10日に、ドイツ軍はベルギーに宣戦布告なしに進入してきた。そして5日後の5月15日には、ドイツ軍はパリに向けて進軍を始めていた。そこでマグリットは親友スキュトウネール夫妻と汽車でフランスへの脱出をはかる。でも妻のジョルジェットは盲腸炎に苦しみ連れて行くことができなかった。そしてマグリット自身もブラッセル発のパリ行きの汽車がなくなっていたために、立ち往生していた。ようやくフランス国境をこえてフランスのリールまでたどり着き、そこからパリ行きの列車に乗ることができた。パリに着くと、今度はパリ郊外の友人クロード・スパークの家に行き、預けてあった自分の作品を取り戻して金に換え、フランス南西のカルカッソンへ逃げた。このクロード・スパークという人物は、戦前・戦後ベルギーの外務大臣を務めたオンリ・スパークの弟だ。大変興味深いのは、当時クロード・スパークはポール・デルボーの親友でもあって、マグリットがたずねていったスパークの家は、1948年の暮れに、ポール・デルボーがタムと駆け落ちしていった家でもある。
残念ながら親友スキュトウネール夫妻はジロンド地方でピカソと出会い、マグリットはたった一人でカルカッソンにたどり着き、そこで耐乏生活を余儀なくされる。一か月後にスキュトウネール夫妻がカルカッソンに来てくれたものの、彼の頭の中にはベルギーに残したジョルジェトのことしかない。何とかしてベルギーの妻の下に戻りたい。そう願うのだが、占領下で簡単にはベルギーに戻れない。おまけに、列車で旅行するには自由通行証が必要で、それが取れる見込みもない。とうとう彼は自転車でベルギーに戻る決意をする。でも、あっという間に力尽きて、カルカッソンにまいもどった。そして、8月4日にとうとう自由通行証を入手したが、戦争中のことゆえ、なにが起こるかわからない。しかも彼はナチスから退廃芸術とみなされていたシュールレアリスムの画家。そこで彼はニースまで避難していたスキュトウネール夫妻に「ベルギーに着く前に、もし死んでしまったなら、ジョルジェットに、最後の瞬間までおまえを愛していたと伝えてくれ」と書いた遺書を郵送して出発した。この絵は、そうして命がけでたどり着いたベルギーの妻のそばで描いた作品だ。だから「帰還」なのだ。

 解説を読むとマグリットの生きた足跡が見えてくる。平和を希求する気持ちか、それとも別の意味なのか、マグリットの深層心理が明暗のある描写のなかでおぼろげに浮き彫りにされてくる。




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by madamemariko | 2010-01-02 04:35 | 美術散歩
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